2016/02/26

シー・バタフライは海を飛ぶ


海に生息する小さな動物性プランクトンの多くは、彼らの持つ手足をパドルのように使って動いている。しかし、コショウの実程度の大きさの海生巻貝であり、英語でシー・バタフライ(海の蝶)とも呼ばれる有殻翼足類は、海中を"飛ぶ"ための翼のような付属器官を持っていることが長く知られていた。

ジョージア工科大学の研究者たちは「The Journal of Experimental Biology」に、シー・バタフライはショウジョウバエと同じ方法で翼を羽ばたかせているという研究結果を報告した。小さな昆虫は空中で8の字に翅の先端を動かしており、彼らもこの方法によって揚力を生み出している。

彼らはシー・バタフライの翼の先端に渦巻きを確認した。David W. Murphy 氏によると、これは昆虫では検知できなかったものだ。Murphy 氏は現在ジョン・ホプキンス大学で研究をしている。彼曰く、しー・バタフライの羽ばたきを観察するのは容易であったという。というのも、昆虫であれば毎秒数百回も羽ばたくが、シー・バタフライは毎秒4,5回しか羽ばたかないからだ。


Murphy 氏は学位論文用にシー・バタフライを研究するための装置を作成した。「巻き貝は実験によく使われ、ちいさいものは1~5 mm 程度の動物性プランクトンです」と彼は説明する。


実験には4つのハイスピードカメラを用い、1辺の長さが1インチ以下の体積レベルでの理解を容易にするために、海水のタンクには2つの赤外線レーザーが向けられた。また、Murphy 氏はタンクの中に光を反射する直径0.003インチ以下の微粒子を入れた。これによって、シー・バタフライが水中を飛び回るときに粒子が描き出す渦巻きパターンを観察でき、翼がどのように揚力を起こしているのかを見ることができるという。

Murphy 氏曰く、シー・バタフライは体を回転させることで、昆虫の翅の動きととても似た8の字に翼を動かしているという。研究者たちも今まで見たことがなかった動きであり、彼らはこれをハイパーピッチング(hyperpitching)と呼んだ。

他の点においてもショウジョウバエと同じように、シー・バタフライは「clap and fling」というモーションを利用している。空中でも水中でも同じモーションができるという点は意外かもしれないが、どちらも流体であり同じ物理法則に従う。水はより粘性が高いが、シー・バタフライはショウジョウバエのような昆虫より大きいため問題はない。技術的にいえば、空気も水も同じレイノルズ数(流体の慣性力と粘性力の比を表す数)を持っているのだ。

ハイパーピッチング(hyperpitching) は小型飛行ロボットのデザイナーにとって、それについて考察する上で何かしら役に立つものとなるかもしれない。また、実用的な価値は別として、流体力学の分野のような研究において美しいイメージを生み出したといえる。それはまさしくシー・バタフライの名にふさわしいだろう。「シー・バタフライは名誉ある昆虫なのです。」Murphy 氏はこう締めくくった。

《参考文献/サイト》


  1. A Sea Snail That Moves Like a Flying Insect”. The New York Times.  (アクセス日:2016/2/24)

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