彼女は、すぐにGoogleの親会社であるアルファベット社に取り込まれるであろう、野心的な取り組みに魅了されたのだ。Googleの持つデータアナリティクスやエンジニアリングの専門知識によって養成された生物学チームは、小型の電子機器を開発し、それらや他の手段で、今日よりもより継続的に、より多くのヘルスケアデータを収集し解析することが期待されている。「私が惹きつけられたのは、私のような人の横に座っている素晴らしいテクノロジーのバックグラウンドを持っているハードウェアやソフトウェアのエンジニアが、夢中になって取り組んでいることでした。この衝撃は大きかったです。」メガ氏はこう語っている。
Googleへの参画を決めた医師や研究者たち
3月にGoogleへ転職したメガ氏のこの決定の発表は、Googleのミッションに参画している最先端を行く科学者や医師による一連のアナウンスの1つであった。彼らは新しいタイプのキャリアパスの先駆け的存在だ。Googleの革新的なプロジェクトを率いているのは、コンピュータサイエンスやテクノロジーの学術研究者だが、Googleや他のテクノロジー会社は、シリコンバレーがその勢力を医療分野にまで広げるにつれ、ライフサイエンティストの採用を増やしている。カリフォルニアのスクリプストランスレーショナルサイエンス研究所のディレクターであるエリック・トポル氏は「我々はこれからも先導者となる人物の採用をますます増やしていくことになると感じています。」と述べている。
9月に、メリーランド州の米国国立精神衛生研究所のディレクターであるトーマス・インゼル氏は、テクノロジーを精神衛生分野へ利用するための方法を開発するために、まもなくGoogleへ参画すると表明した。昨年は、サンフランシスコのカリフォルニア大学老化研究所を率いる分子生物学者であるシンシア・ケニヨン博士がGoogleが支援しているバイオテクノロジー会社であるCalicoへと参画した。
シリコンバレーのまさにど真ん中に位置しているスタンフォード大学の心臓専門医ユアン・アシュリー氏曰く、大学のデータサイエンティストは、彼らが大学から離れるのを心待ちにしている企業によって常に誘いを受けているとのことだ。「彼らは継続的に採用されていきます。我々はまさにGoogleや他のテクノロジー企業と、人材を巡って競い合っているのです。ただ大抵の場合、スタンフォード大学以上の給料を、企業は提示するのです。」
しかし、給料だけが魅力というわけではない。トポル氏が言うところでは、シリコンバレーは学会がアクセスしにくい強力なテクノロジー資源を提供するという。そして大学では到達するのが難しいようなゴールを追い求める機会も同様に提供してくれる。大学では、現実世界に適用するようなことを追い求めても、一般的に評価されないのだ。「テクノロジー資源は、学会を介して得られるものと比べて、指数関数的に増加しています。また、指標も異なります。成果を発表するのではなく、ただ”仕事を成し遂げる”のです。」
2012年、シアトルにあるワシントン大学で終身在職権をもっていた電気技師のブライアン・オーティスがGoogleで働くために、その職位を離れることになった。そのとき、彼の心の中にあった一番の考えは、「仕事を成し遂げよ」であったという。彼は、涙中のグルコース濃度を測定することができる、糖尿病患者のためのスマートコンタクトレンズの開発のためにGoogleへ転職したのだ。プロジェクト開始時、2つの大きな疑問に直面した。装着可能なコンタクトレンズに、機能的なワイアレスのグルコースセンサーの作成に必要な電子装置を埋め込むことができるだろうか?このコンタクトレンズによってグルコースレベルを適切に測定できるだろうか?これらの疑問へ回答するためのモチベーションと手段は、強力なインセンティブであったと、オーティスは語っている。
プロジェクトは成功し、昨年製薬業界の巨人ノバルティスはコンタクトレンズ技術のライセンスを取得した。オーティスはいまやGoogleのライフサイエンス部門のハードウェアや医療機器開発チームのディレクターに就任している。
Google以外のITの巨人達も医療分野へ進出している
ResearchKit
4月にはIBMも” IBM Watson Health”と”Watson Health Cloud”を発表した。これらのサービスは、様々なソースから入手した膨大な量のヘルスケアデータを処理するために、コグニティブ・コンピューティングテクノロジーが使われている。このサービスによって、医師は患者個人の持つ電子装置からの情報にを利用し、患者の健康を管理することができるようになる。製薬会社も、クラウドコンピューティングを利用し、より効率的に臨床試験を管理することができるだろう。そして同時に、Intelはより個人にカスタマイズされた癌治療を提供するために、クラウドコンピューティングサービスを開発している。Facebook、Microsoft、AmazonといったIT業界の巨人たちもまた、この医療サービスの開発に関わってきている。
しかしGoogleのアプローチは他社と異なっている。彼らは将来性のあるヘルスアプリケーションへより資金を投入し、他社以上に多くの方向性を探っているのだ。評論家は、同社はライフサイエンスの研究に年間10億ドル以上を費やしていると見積もっている。Googleのライフサイエンスチームは、健康を測定する新たな方法の開発を含む、様々なプロジェクトで研究をしている。スマートコンタクトレンズプロジェクトと同様、Googleのプロジェクトに、健康と病気のより良い測定のために人々の膨大なデータを集めることを目的とした”Baseline Study”というものがある。これはより早期に、より効率的な予防を実施することをゴールにしている。同社はまた、大学などの外部との巨大な共同研究のために資金を出している。例えば、Googleゲノミクスは、ゲノム科学のためのクラウドコンピューティングアプリケーションの研究をしているプロジェクトで、Googleの設立したベンチャー企業のCalicoは外部企業や大学の研究所と多くの共同研究を行っている。
「Googleはバイオテクノロジー企業がふつう行わない方法で、学界に手を差し伸べているのです。」カリフォルニア州の老化と関連疾患の研究所「Buck Institute for Age Research(BIRA)」の分子細胞生物学者であるジュディス・カンピージ博士はこう述べている。科学者は商品の販売のためにGoogleに参加するのではなく、コラボレーションという形でGoogleに協力することができるのだ。
「一部の大学研究員にとって、テクノロジー企業への参画は新しいエキサイティングな機会なのです。」マサチューセッツ州にあるBroad Institute of MIT and Harvardのスティーブン・ハイマン医師はこう述べている。「しかし、リスクを抑えたい人にとっては、テクノロジー企業は最適の環境とはならないでしょう。Google、Apple、Microsoftといった世界的企業のライフサイエンス分野でのゴールというのは、企業が新たな領域を探索することによって、短期的に変わる恐れがあるのです。」
《参考文献/サイト》
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