彼の死因は、矢に刺されたうえ後頭部を鈍器のようなもので殴られたことによる失血死とも言われているが、どうやらいろいろな病気にも苦しんでいたようだ。研究者たちは、彼が虫歯や動脈硬化、そしておそらくライム病も患っていたのではないか、ということを示している。
2010年、研究者たちはCTスキャンによって彼の胃がまだ保存されていることを発見した。胃の中身は検査され、彼の最後の食事はアイベックスや野生の穀物であったことが判明した。その後、研究チームはイタリアのミイラ・アイスマン研究所の分子生体考古学者であるアルバート・ジンク所長が率いることとなり、ピロリ菌に感染していないか調査に乗り出した。
ピロリ菌の遺伝子の抽出
ピロリ菌は現代人のおよそ半分が持つバクテリアだ。感染していると、確率は低いが、潰瘍を引き起こしたり、場合によっては胃がんも発症してしまう。
黒死病の犠牲者の歯から腺ペストを引き起こす細菌のDNAを抽出する方法と似たような精製技術を用い、ジンクのチームはアイスマンの胃から遺伝物質を取得した。現代のピロリの160万文字のゲノムのうち92%が、その遺伝物質と一致したという。また、アイスマンが感染していた細菌株はある種の細胞毒の遺伝子が含まれていた。その毒素によって現代のピロリ菌は潰瘍を引き起こすことができる。ジンクのチームは、タンパク質断片もアイスマンから同定した。それはピロリ菌を保有する人の炎症した胃の組織に見られるものだ。このことはアイスマンが感染症によって病気を患っていたことを示唆している。
アイスマンから発見されたピロリ菌の遺伝物質は、現代のヨーロッパでよくみられるピロリ菌とは遺伝的には異なっていた。それは北アフリカとインドで見られるピロリ菌のハイブリット型であり、アイスマンから見つかったものはインドのものとのみ一致する。これはアイスマンの死後に、北アフリカのピロリ菌がヨーロッパへと移動したことを示唆している。
現代のピロリ菌はどこからきたのか
研究の共著者である、南アフリカにあるヴェンダ大学のYoshan Moodley氏はアイスマンのピロリ菌は、おそらく初期のヨーロッパ人の胃の中で生息していたオリジナルの細菌株であろうと推測している。
「太古のピロリ菌株は、銅器時代のヨーロッパに生息していたピロリ菌の集団についての発見という、おそらく唯一の機会を我々に提供してくれました。」と彼はジャーナリストに語った。「太古のピロリ菌のDNAを抽出できるほどに保存された標本の発見というようなことは、おそらく二度と起こらないでしょう。」
イギリスのスウォンジー大学の集団遺伝学者であるDaniel Falush氏はこの研究は重大な問いに応えることができるものと考えている。それは現代のヨーロッパで見られるハイブリッド型のピロリ菌がいつ頃出現したか、という問いだ。過去の研究はおよそ5万年前の中東を起源にしていると主張している。いまのところ北アフリカのピロリ菌の遺伝子がどのようにヨーロッパに移動してきたのかはまだ明らかになっていない。「ナイル渓谷のファラオが運んできたんでしょう。」と彼はジョークで締めくくった。
《参考文献/サイト》
- “Famous ancient iceman had familiar stomach infection”. Nature. (アクセス日:2016/1/11)
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