2015/12/21

水銀は霧の中に


特に妊婦や子供にとって、魚の摂取量は注意しなければならない。水銀を摂りすぎることになるからだ。水銀は海洋中でメチル水銀へと姿を変え、海の生物たちの体内に蓄積されていく。小魚等では少量しかないものの、大型の魚がメチル水銀を有する小魚を捕食することで、さらに蓄積されていく。生物濃縮ともいわれるこの連鎖によって、マグロ等の大型の魚にはメチル水銀が高いレベルでみられる傾向にあるという。水銀は幼児や胎児の成長に悪影響を与えるため注意が必要だ。

ただ、魚だけに注意すればいいという問題でもないようだ。2012年の報告では、「霧」の中にもメチル水銀が含まれていることが判明している。これはカリフォルニア州沿岸地域での調査の報告結果だ。そして、陸上生物にも、それは蜘蛛のような節足動物からライオンのような大型の動物にまでメチル水銀は蓄積しているという。

カリフォルニア大学の大気学者であるピーター・ワイス博士のチームは、カリフォルニア中部の陸上生物の食物網におけるメチル水銀の量を追跡した。彼らは節足動物の調査から始め、コモリグモやカマドウマ、ダンゴムシといった生き物に蓄積されたメチル水銀の量を測定した。結果、すべての節足動物にメチル水銀の蓄積が確認され、もっとも高いレベルで検出されたのはコモリグモであった。コモリグモは肉食性であり、他の生き物を捕食することで水銀が高濃度に蓄積していったと考えられる。
「霧の発生地域にいる蜘蛛の水銀レベルはFDAが設定している基準(ヒトに対する基準)を超えています。」こう説明するのはカリフォルニアにあるモスランディング海洋研究所のディレクターであるケニス・コール博士だ。彼は霧を介した海洋から大気中への水銀の移動を研究している。

他の生物、特により大型の生物も影響を受けていることだろう。ワイス博士は、暫定的ではあるもののカリフォルニア中部に生息するシカや、彼らを捕食するクーガーやピューマといったマウンテンライオンにも高レベルの水銀が蓄積していることを示した。それは彼らの健康に影響を与えうるほどのレベルであるという。ワイス氏のチームは引き続き霧を介した水銀の汚染について調査している。この研究により、我々が想像しているよりも大きな水銀の問題が浮き彫りになるかもしれない。単に魚の摂取量を抑えるだけでは解決にならないことだろう。

《参考文献/サイト》
  1. Fog ferries mercury from the ocean to land animals”. Science News.  (アクセス日:2015/12/19)

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