赤血球がフェニルケトン尿症を治療する
Rubius社はフェニルケトン尿症(以下、PKU)に対する治療薬を最初に発売する予定だ。PKUは致命的な遺伝性疾患で、発症者はアミノ酸の1種であるフェニルアラニンを消化することができなくなる。治療せずに放っておくと脳へのダメージ等の深刻な症状が起こってしまうが、残念ながら唯一できることは、厳格な食事制限によってフェニルアラニンの摂取を抑えることだけだ。同社はこれまでのところ、実験室にて人間の血液を用いたテストと、動物を使ったテストを実施しており、来年には臨床試験を開始することを目標に掲げている。また、PKUの治療のために赤血球をベースにした50種以上の治療法を開発したと、同社のCEOでありFlagship VenturesのパートナーであるAvak Kahvejian 氏は述べている。彼曰く、同社のアプローチによって血液疾患、自己免疫疾患、感染性疾患、および癌などに対する生物学的治療法を生み出すことができる可能性があるという。確立された分子生物学的手法を用い、Rubius社の科学者は人の骨髄から前駆細胞を入手した。その細胞から、特定の治療用タンパク質を表面もしくは内部に産生するヒトの赤血球を作成した。この赤血球は完全に成熟するまでに産生したタンパク質を血中で放出する。これは異常な細胞や癌ができる可能性のある他の幹細胞や遺伝子を用いた治療法よりも安全であり、コントロールもしやすい治療法だという。長期療法も可能となるか
ヒトの赤血球は4か月もの間、体内を循環する。これは赤血球を用いることで、長期治療が可能であることを意味する。赤血球は体中の血液であればどこからでも採取でき、また免疫系からも攻撃を受ける心配もない、とKahvejian氏は説明する。PKUの治療の場合、研究者はまずフェニルアラニンを分解できる酵素を同定したが、これを直接血液中に注射しても、速やかに排出されてしまう。また免疫反応が働き、酵素を記憶した免疫系が将来にわたって働き続けることになる。これら2つの作用によって、酵素を直接注射しても役に立たなくなってしまう、とMITの生物学と生物工学の教授でありRubius社の取締役でもあるHarvey Lodish氏は説明する。彼はまた、望みどおりの酵素を産生する赤血球こそが、この2つの作用による問題への明快な解決策だと述べている。実際に動物でのテストでは、作成した赤血球は多くの病気に対してとても強力な治療法になったという。また、Lodish氏の研究室で行われた未発表の研究結果では、特殊な細菌性毒素の抗体を産生する赤血球を持つマウスが、致死量に及ぶその毒素を何度摂取しても耐え抜いたという結果が示された。しかし、同社は他のパイプラインになるであろう治療については口を固く閉ざしており、情報が掴めないままだ。Kahvejian氏は赤血球を用いた新たな治療薬となる可能性のあるものについて、こう述べている。「君たちの想像の範囲内のものだよ」と。
《参考文献/サイト》
- “Turning Red Blood Cells into Versatile Drug Carriers”. MIT Technology Review. (アクセス日:2015/12/10)
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