2015/12/02

ゲノム編集について知っておきたい7つの事実


ヒトゲノムの編集に関して、その倫理的な問題が注目を浴びている。来たるワシントンDCでのサミットにおいて、このトピックについて話し合う準備もできているようだ。世界的な会議でも議題に上がるほどのインパクトの強い技術であるゲノム編集。神の技術とも称されるこの技術について知っておきたい7つの事実をNatureが発表している。

1. ヒトの生殖細胞に対するゲノム編集の実施は1例のみ
2015年4月、中国は広東省にある孫逸仙大学の黄(ファン)教授はCRISPR-CAS9を使用してヒトの胚に対するゲノム編集を実施した。論文が”Protein & Cell” に載る1週間ほど前には、この研究に関する噂が「ヒトの生殖細胞のゲノムを編集する行為が倫理的に問題がないのか」という議論を起こしている。黄教授の研究で使用したヒトの胚は、発育不能で、結果として生命には育たたないものであった。しかし、原理的には生殖細胞のゲノム編集は次世代に影響が及ぶものであるため、倫理的問題が議論になるのも無理はないであろう。

2. ヒトゲノム編集に関する規制は各国で異なる
ドイツではヒト胚を用いた実験は厳格に規制されており、違反者は刑事犯罪者として罰せられる可能性がある。対照的に日本や中国、アイルランド、インドといった国では、法的強制力のないガイドラインが定められているに過ぎない。このような国による規制の違いもあってか、多くの研究者は国際的なガイドラインの制定を望んでおり、ワシントンDCでのサミットにおいてガイドラインの作成のためのプロセスが開始されることを期待している。

3. ゲノムに関するプロフェッショナルになる必要はない
CRISPR–Cas9 を使用すれば、ゲノム編集を簡単かつ格安で実施できる。アマチュア生物学者が改造したガレージや地域のコミュニティにあるような研究室でちょっとしてみよう、という気持ちで実施しても大丈夫だ。プロフェッショナルな生物学者にしか扱えない技術ではないのである。

4. ゲノム編集に使用できる酵素はCas9だけではない
CRISPR–Cas9 システムにおいて需要な要因となるのは、DNAを切断する酵素であるCas9だ。しかし9月、Broad Institute of MIT and Harvardの合成生物学者である張(Feng Zhang)教授がCpf1というタンパク質を発見したと報告した。このタンパク質はゲノム編集をより容易にする可能性があるという。(Zhang 教授はCRISPR-Cas9を哺乳類の細胞でのゲノム編集に使用したパイオニアである。)

5. ブタはゲノム編集実験において脚光を浴びている
イヌやヤギ、サルは増えつつあるCRISPR動物園の一員だ。しかし特にブタは、いくつかの目を引く報告の中心にいる。通常の飼育されたブタの6分の1程度の体重しかない"ミニブタ"や、とてつもなく筋肉が発達したブタ、一度に62ヶ所も遺伝子を編集されたブタなど、注目度はとりわけ高くなっている。

6. ビルゲイツやGoogle、デュポン社はゲノム編集に興味津々だ
8月にはビル&メリンダ・ゲイツ財団とGoogleベンチャーを含む13の投資機関が、ケンブリッジにあるゲノム編集会社のEditas Medicineに対して1億2千万ドルの投資を実施した。また、化学大手の米デュポン社もこの動きに続いた。同社はカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授の研究室発のベンチャー企業であるカリブー・バイオサイエンシズ(Caribou Biosciences)と提携することを10月に発表した。これによりゲノム編集を用いた作物の栽培研究に本格的に乗り出すことになる。同社は「5~10年以内に製品出荷を見込んでいる」と話している。

7. CRISPR–Cas9は特許騒動の渦中にいる
張教授はCRISPR–Cas9に関する米国での特許を2014年4月に取得した。しかし2012年に彼が申請をした日より数か月前、ダウドナ教授とマックス・プランク研究所のエマニュエル・シャルパンティエ教授は、それぞれ特許を申請していた。カリフォルニア大学バークレー校は、誰がCRISPR–Cas9の特許を得るべきか、とりわけヒトの細胞への適用についての特許に関して、決定するよう米国特許商標庁へ求めている。同様の議論はヨーロッパでも起きている。

《参考文献/サイト》
Genome editing: 7 facts about a revolutionary technology”. Nature.  (アクセス日:2015/12/1)

0 コメント:

コメントを投稿