冷凍療法に科学的根拠はあるのか?
ここ数年、冷凍療法は主流な療法として使用されるようになっている。いまやアメリカ中の健康施設がこの療法を提供している。また、つい最近では、ネヴァダ州の施設で働く女性従業員が冷凍室に閉じこめられて死亡するというショッキングなニュースによって、国民の注目を浴びてしまった。いくつかの施設は、冷凍療法はエンドルフィンの放出と血行促進によって、痛みを和らげ炎症を抑える効果があると主張している。しかし、少なくとも筋肉の痛みを治療したり抑えるという点において、全身冷凍療法が効果的であるという科学的な根拠はいまのところ存在しない、とコステロ教授とその同僚たちはコクランライブラリーへ報告している。「単純に冷凍療法が効果的かどうかの証拠が不十分なのです。」と彼らは説明している。
典型的な冷凍療法では、顧客はサウナのように服を脱いで、マイナス100℃以下の空気に満たされた冷凍室の中に入る。いくつかの施設では液体窒素も使用する。どちらにせよ顧客は2~4分程度冷気にさらされることになる。この治療によって皮膚や筋肉は冷やされることになる。もちろん人自体は冷凍室と同じくらい冷たくはならないが。2012年のPLOS ONEに発表されたコステロ教授の研究では、4分間の治療後、皮膚の温度は19℃程度になっていると報告している。これは通常時より10度程度低い温度だ。(治療中に関して言えば、皮膚はマイナス35度にまで下がることがあると2013年の研究は示している。)
体組織の冷却によって、様々な影響が起こるとコステロ教授は述べている。血流の減少や代謝速度の低下、脳への神経伝達シグナルの遅延などがそうだ。しかし、この療法がどのようにケガを治療するのかに関しては未だあいまいな状態であるという。
冷凍療法はヒトを救えるか
最初の全身冷凍療法用の冷凍室は、リウマチ性関節炎のような炎症性疾患の治療のため、1970年代に日本で開発された。しかし医師たちは別の用途で使用し、何年間も様々な病状を治療するためにあまり極端でないレベルで全身の冷凍を実施した。また、冷凍療法によって酸欠状態の新生児を助けることができるように思えると、フェニックス小児病院の小児神経科医であるジョン・ケリガン氏は述べている。いくつかの研究は、軽度の低体温は自己破壊から細胞を保持し、いくつかの神経保護遺伝子のスイッチをオンにすることを示唆しているという。しかしこの新生児の例はとても限定的なシナリオである。人々は、体を冷凍することが、様々な問題を抱えた患者の一助となるという推測をすることができないであろう、とケリガン医師は述べる。例えば、心臓麻痺の犠牲者を冷凍することが、実際に組織を守るために何かできるということはないのだ。最近の研究がそう示しているという。また、低体温になることで、患者は肺炎にかかりやすくなるということも示唆されている。(SN Online: 11/18/13)ケリガン医師は、筋肉の痛みを和らげるための全身冷凍療法のメリットについては納得していない。「実施をするな、とまでは言いませんが、実施をするに値する確かな根拠を我々は持っていません。」
コステロ教授のチームは、何千もの研究を調べ上げることで何かしらの根拠がないかを探し求めた。チームは4つの小規模な研究を発見した。それらは合計で64名の患者が実験に参加しており、筋肉の痛みとその回復に関して、冷凍療法と他の治療法もしくは何も治療しない場合とを比較している。
いくつかの研究はごく小さなメリットがあることを報告している。「しかし、研究の結果は曖昧なものです。」とコステロ教授は述べている。より信頼のおける結果が求められるという。「もっと多くの研究、データ、そして64人以上の患者が必要なのです。」彼はこう付け加えた。なお、冷凍療法が何か副作用を発症するという具体的な報告に関しても、彼らが調べた研究においては何もなかった。
この領域に関しては、さらなる研究が当然ながら必要であるということに、コステロ教授の解析に参加した運動科学者のボルト・フォンダ氏は同意している。しかし彼は、一部のアスリートにとっては冷凍療法は役に立つものと見なすことができると考えている。「いずれ冷凍療法がとても有用であるという証拠が見つけられると私は考えています。」とボルト氏は述べている。
こうしている間も、氷風呂でずぶ濡れになることが、体を冷やすもっとも簡単な方法になっているだろう。全身冷凍療法と氷風呂の冷水では100℃かそこら温度が違うにもかかわらず、数分程度体を冷やすという2つの治療法が似たような価値をもたらすことを、コステロ教授は発見している。今でもまだ、氷風呂がアスリートの回復やパフォーマンスを改善するという十分な根拠は存在しない。とはいうものの、やはり冷やすという行為が、運動後の筋肉の痛みを取り除いているように思えるのである。
《参考文献/サイト》
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