捕食者は食物網の破壊者か

シャチ、ホッキョクグマ、そしてヒトに共通することは何だろうか？いずれも自身が好んで食べる「餌」が少なくなったとき、新たに別の餌を選択して捕食することができる点だ。しかし、このような餌の変更は、生態系全体を混乱させてしまう。

「もし捕食者が効率的に獲物を仕留めることができるとした場合、このような獲物の変更は食物網全体にマイナスの影響をもたらすことでしょう。短期的に見れば、捕食者の生存にはプラスにはなりますが。」理論生物学の博士課程の学生であり Bo Ebenman教授のもと仕事をしているDavid GilljamとAlva Curtsdotter博士はこう述べている。

彼らは自然界の食物網、およびコンピューターで作成した食物網の両方を利用して実験を行った。そして、捕食者の獲物の変更によって引き起こされる資源の酷使が、最悪の場合、ドミノ倒しのように種を次から次へと絶滅に追い込んでしまう仕組みを提示した。分かりやすい例として、主に生まれたばかりの子クジラを捕食していたシャチがあげられる。彼らは、狩りによってクジラが劇的に減少してしまうと、代わりにアザラシを狙い始めた。そして、アザラシを一掃すると、次は他の海の生き物を捕食し始める。この結果、他の生き物達が好んで捕食していたウニに対する捕食圧は減少することになる。そして、従来よりも捕食されにくくなったウニは、多くの魚や小さな海洋生物の子育ての場として役に立っていた、"海藻のベッド"を食べ荒らしてしまう。

「多数の捻じれた繊維から作られたロープを想像してみてください。力がロープに加わったとき、その力はすべての繊維に広がっていきます。それによって、もし1本の繊維が千切れてしまったら、残りの繊維で力を支えないといけません。最初より繊維が減った分、1本1本にかかる力は強くなっています。そしてさらに繊維が千切れ、最終的にロープそのものが千切れてしまうのです。」Ebenman教授はこう述べている。

シャチ以外においても、現実にこのようなことはいくつか起こっている。

• 北極の氷が溶けることによって、ホッキョクグマはアザラシの捕食が難しくなった。彼らは内陸にまで進出し、地面に巣を作る鳥類の雛や卵を捕食し始めているという。鳥類はすでにホッキョクギツネによって捕食されている対象であり、ホッキョクグマが加わることで、鳥類への捕食圧がとてつもなく高くなってしまうだろう。
• 西アフリカの漁師たちは、工業的規模の漁業によって引き起こされた漁獲量の不足により、もともとの漁場を放棄している。その代わりに、あろうことか自然保護区での漁を開始し、結果としてそこにいた生き物たちは劇的に減少してしまった。人間は極めて柔軟性があり、効率的に獲物を捕らえることができる生き物だ。人間が生態系に与える影響は計り知れないといえる。

ロングアイランド大学の研究者が示した理論的なシミュレーションは、私たちが以前まで捕食者が好む獲物が無くなったときに起こるであろうと信じていたことに完全に反する結果を示している。Ebenman教授はこうも述べている。「以前までは、捕食者が別の獲物を狙うようになることで、絶滅の連鎖は防ぐことができると信じられていました。今回の我々の研究では、逆の結果が起こることを示唆しており、その影響はいっそう悪いものとなるでしょう。獲物の変更は諸刃の剣です。短期的には捕食者の生存を助けますが、長期的には食物網全体にマイナスの影響を与えてしまうのです。」

《参考文献/サイト》

1. “The predator survives – but the ecosystem crashes”. Science Daily.　 (アクセス日：2015/10/9)