2015/10/23

動物はドローンを敵とみなすか


1年前の10月、ある晴れた日の朝にクリストファー・シュミットはアメリカはマサチューセッツ州ケンブリッジのチャールズ川沿いにあるマガジン・ビーチの草むらを散歩していた。彼は素晴らしい秋の情景を撮影するために、彼はDJI Phantomというカメラを備えたクワッドコプター型のドローンを宙に飛ばした。
撮影中に彼は子供のアカオノスリがドローンの近くを旋回しているのを見つけた。そして数秒も経たないうちに、アカオノスリは、翼を広げ、尾をなびかせ、鉤爪を開きながらドローンに急襲を仕掛けてきた。ドローンは空中で裏返しになってしまい、シュミット氏はそのプロペラを停止させた。攻撃を仕掛けたアカオノスリは見たところ無傷で飛び去って行った。ドローンは地面に墜落したが、着陸装置が一部微妙に曲がった以外、特にダメージは受けなかったようだ。

31歳のソフトウェア開発者のシュミット氏は、撮影したドローン目線の映像をYoutubeにアップし、それは500万回も再生された。

ちなみに、この映像は動物と無人飛行物体との闘いを記録した唯一の証拠ではない。他の映像としてあるのは、ミサゴ、カササギ、カモメやガチョウが空中でドローンを追いかけ攻撃したものがある。カンガルーは飛び跳ね、パンチを食らわしてドローンを地面にノックダウンした。チーターはドローンを追いかけ、飛びついて、力いっぱい強打したという。また、好戦的な牡羊はドローンにヘッドバットをくらわした。そして、オランダの動物園にいた特に反抗的なチンパンジーは、枝を使ってブンブンうるさい侵入者を空高くぶっ飛ばしたこともあるのだ。

ドローンが小さく、安価で、簡単に操縦できるようになるにつれて、動物たちはその空中を飛び回るパパラッチとますます闘わなければならなくなるだろう。米連邦航空局のリッチ・スウェイジ氏は、今年のクリスマス商戦中にアメリカ国内で100万個のドローンが販売されると見積もっている。現在のところ航空局は商用のドローンに関しては公式に規制をしていない。アマチュアのユーザーに関しては、基本的な安全ガイドラインに従うよう強く奨励しているが、そのガイドラインは動物についてほとんど触れていないのが現状だ。

アマチュアのドローンユーザーは、のんびりと暮らしているアザラシとその子供を海に追い返したり、モロベイでダイビングをしているカワウソを怯えさせたりしている、とカリフォルニア州モントレーベイ国立海洋保護区の連邦規制コーディネーターのスコット・キャシー氏は訴えている。昨年6月に、国立公園サービス(NPS)はアメリカの58ある国立公園すべてで無人航空機の使用を禁止した。理由は、ドローンがビッグホーンや他の動物たち、そして観光客のの安全を脅かし、騒音などの迷惑行為への苦情が発生するのを防ぐためだという。

野生生物の研究へのドローンの使用

このNPSが実施したようなドローンの使用への干渉は、野生生物学者に対しても警告を発している。彼らは研究のためにドローンを活用する方針へまさに転換している最中にいる。ドローンはヘリコプターやジープ、ボートといったものよりも、より安全で機敏であり、安価かつ騒音も少ない。キャシー氏はこう述べている。「科学者がもっともしたくないことは、動物たちの自然なふるまいを変えてしまうことです。動物たちの邪魔をできる限りしないように、彼らは自身が壁を越えて飛んでいきたいと望んでいるのです。」

時に役立つが、時にはそうでもない。ドローンはペンギン、ヒョウアザラシ、カナダヅルやジュゴンに刺激を与えぬよう静かに調査をするうえで役に立っている。パタゴニアでは、クジラの健康状態を観察するため、ドローンを彼らが噴き出す潮の中を通過させ、彼らの粘膜成分を採取している。そしてケニア野生動物公社(KWS)は、監視用のドローンがサイやゾウの密漁を減らしているかもしれないことに気付いた。

しかし一方で、小さく機敏で蚊のような侵入力を持つドローンは、野生生物にとってこの上なく厄介で危険なものだ。科学者はドローンのリスクとベネフィットの詳細について調査し始めた。しかしすでに明らかなように、リスクやベネフィットは野生動物の種によって異なり、またドローンをどのように飛ばすのか、という点に依存している。

ドローンは野生動物に影響を与えるか

昨年、フランス国立科学研究センターの生態学者であるデビッド・グレミレット博士と彼の同僚たちは、モンペリエにある動物園の池にいる野生のマガモの近くに、繰り返しクアッドコプターを飛ばした。その後チームは、ローヌ川のデルタ地帯近くにある塩水の潟湖を歩いているフラミンゴやアオアシシギへ、ドローンを飛ばし観察した。彼らはドローンの速度や入射角を変え、204通りもの接近方法を試み、それに対する鳥たちの反応を双眼鏡を使って観察した。実験ではドローンを鳥の4メートル以内に近づけたが、観察時間の80%は鳥は何の反応も示さなかった。しかし、垂直に降下しながら接近した場合は、ほぼ毎回その場から離れたり、素早く逃げ出したりする反応を示した。垂直に、というのが彼らに猛禽類の接近をイメージさせたのだろう。


最初に野生動物へのリスクを評価する場合、明らかにこの研究には見込みがあることを感じました。」グレミレット博士はこう述べている。「種によって、ドローンに対して異なる独自の反応を示すでしょう。」彼は、テリトリーを持つ鳥、たとえばタカやカラス、カモメといった鳥は、おそらくドローンを攻撃するだろうと説明した。いずれ、ドローンは水鳥たちの150フィート以上上空から、彼らに見つからないように観察できるような理想的なものになることだろう。しかし、グレミレットと彼の共著者は警告している。たとえ動物がドローンに対して何も反応を示さなかったとしても、ドローンが彼らに何のストレスも与えていない、ということを意味するのではないと。動物への影響を調査する上で、彼らの内的な生理状態の検査を実施しなければならない、ということは確実といえる。

最近、アメリカの科学者のチームが、まさにその通りの研究を開始した。彼らはミネソタ州の北西にある森林や低木地、および農場にいる4体の大人のアメリカグマとその子供たちの上空を円を描くように飛行するよう、独自にクアッドコプターをプログラムした。研究に先立ち、大人のアメリカグマにはGPSと小型の心拍数計を取り付けている。外見から判断するに、クマたちは特に不安を感じているようなことはなかったようだ。一体のクマが一か所に立ち止まり空を見上げることはあったが、ドローンから逃げるような試みはほとんど見られなかった。しかし、一例ではあるが、ドローンが飛行中、クマの心拍数は400%も上昇した。どうやら、騒がしいドローンはクマを冬眠からたたき起こすのに十分な存在なのかもしれない。

「クマは人間の生活音や、農機具や道路といった光景には慣れています。私は彼らが今回どういう反応を示したのか、まだ正確に理解していません。」ミネソタ大学の生物学者で、この研究を指揮しているマーク・ディットマー博士はこう述べている。「心拍数に関して言えば、いくぶん衝撃的でした。動物がハンターに撃たれたとき以外で、このような劇的な変化が起こるというのは、私は知りません。」

ヒトの生活圏との境に生息するクマやシカ、コヨーテといった動物は、人間のテクノロジーの存在を許容し、ときには利用することを学び、また餌を得るために空いているゴミ箱を漁ったり、フェンスを飛び越えたりもする。しかしドローンは、人間社会において、ありふれたものではない。ドローンは人間の化身として我々が行けないようなところにも飛んでいけるよう設計されているが、ドローンに動物たちが慣れやすいかどうかは、科学者も確証が持てていないのだ。

「ドローンが動物とぶつかる動画をネット上でたくさん見ることができるでしょう。一部の人はそれを面白がっています。私はそうは思いませんが。私の意見では、もし誰もがドローンを飛ばし始めたら、それは大きな混乱を招くことになるでしょう。」グレミレット博士はこう言及した。

マギル大学の野生生物学の名誉教授であるデビッド・バードはガチョウやアジサシ、そして餌となる巣を作る鳥類をドローンを使って観察している。彼の研究している一部の猛禽類は、巣を守るために侵入者へ激しく攻撃をしてくるという。バード教授はかつてヘリコプターで調査中に、ミサゴから攻撃を受けたこともあるそうだ。

彼はドローンを使うことで、動物に対する科学的な調査を安全に素早く実施でき、ヒトと動物の双方のストレスを低下させることができると感じている。しかし、彼はアマチュアドローンユーザの「ワイルド・ウエスト・ショー」について懸念している。「ドローンのプロペラには鳥たちに深刻なダメージを与えるものもあります。たとえきちんと責任感を持ってドローンを飛ばしている人であっても、リスクをすべて知っているというようなことはないでしょう。」バード教授はこう述べている。

《参考文献/サイト》
  1. Animals Spy a New Enemy: Drones”. The New York Times.  (アクセス日:2015/10/21)

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