カエノラブディティス・エレガンス (Caenorhabditis elegans)は多くの神経生物学者にモデル生物として選ばれる。なぜなら、神経回路が非常にシンプルで、全ての神経はもれなくその位置が特定されていたからだ。彼らは性別が2つある。といってもオスとメスではない。オスと雌雄同体の2つだ。雌雄同体のカエノラブディティス・エレガンスは、ちょうど302個の神経細胞を持っている。しかしオスは、MCMsの発見により合計385個に増加した。2つのミステリアスな細胞は、ポール博士の同僚のバリオス博士が神経細胞内によく見つかるpdf-1というペプチドの分布を観察しているときに発見された。彼女は細胞が発見されるはずがない場所、線虫の鼻の近くに、照らし出された細胞を見たのだ。オスの線虫が成虫にまで成長した時に神経細胞が発達すると、研究者は結論付けた。
このミステリアスな神経細胞の機能を解明するために、研究者はまず最初にオスの線虫が塩を嫌うように条件付けを実施した。(塩と飢餓を関連付けることによって。)そして配偶者となる別の線虫を塩まみれにした場所に配置した。オスの成虫の線虫は通常配偶者がいた場合、塩は嫌悪すべきという彼らが学習した内容は打ち消されてしまう。(つまり塩が嫌いということは忘れて、配偶者に近づく。)しかし、成長過程でMCMsを除去されたオスは、配偶者のために塩まみれのエリアへと近づくことはもはやなかった。これはMCMsが、オスが交尾を優先するか、食事を優先するかに影響していることを示唆している。
また、MCMsは神経細胞がとても密に結合した神経細胞の束の隣に位置している。この束は神経細胞が重要な行動を制御していることを示すものであり、MCMsも神経回路上、重要な位置を占めているように思われると、ケンブリッジ大学でカエノラブディティス・エレガンスの神経回路の研究をしているビル・シェーファー博士は述べている。
研究チームがより正確にMCMsの起源を確認したところ、グリア細胞と呼ばれる神経系を構成するが神経細胞ではない、完全に分化した細胞から発達することが発見された。これは無脊椎動物において、1つの細胞が完全に別の細胞へと変化をする最初の例である。脊椎動物においては、例えばラットのグリア細胞が脳の発達過程において神経細胞へと変化する例が知られている。
科学においてもっとも理解が進んでいるモデル生物であるカエノラブディティス・エレガンスにおいて、なぜMCMsは今まで見逃されていたのだろう。これに対する説明はいくつかある。雌雄同体のカエノラブディティス・エレガンスに関してはオスに比べてより研究が進んでいると、ビル・シェーファー博士は指摘する。「オスの神経回路は、本当のところあまり理解されていません。」と彼は述べている。また、プール博士曰く、オスについて研究するとき、尾のような明確に違いが分かるところに集中してしまうという。「研究者は脳には注意を払わないのです。」
研究チームは学習を管理する神経系においてMCMsがどのように関わっているのか、そして性別による違いについても研究しようと計画している。「詳細を理解するという点において、何十億の神経細胞をもっている生物より、数百個しか持っていない生物の方がより簡単に実施できることでしょう。」シェーファーはこう述べている。
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